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115°

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信号が青になったにもかかわらず、先頭の車が止まっており、その後ろの車がブーッと鳴らして、
先頭の車が発進したのだが、ブーッと鳴らした車が、先頭の車に接近して煽っている様子だった。
ブーッと鳴らした車のドライバーは、どういう心の動きで煽ったのか? 
気になった。
数秒間、待たされたくらいで、そんなにイラつくものか?

ブーッと鳴らした時点で、”攻撃”をしたわけだから、気が済むはずではないか。

いや、あるいは、数秒またされたあげくに、”信号が青になったことを教えてやった”という腹であるなら、煽って(攻撃して)やろうとなるのかもしれない。

あおり運転は危険な行為で、先ごろ、マスコミで大々的に取り上げられたりもしたようだ。たぶん。テレビをみないのでよくわからないが、SNS上でそんな気配が漂っていたことは記憶している。

いずれにしろ大変によろしくない所業だ。

告白すると、私は不謹慎にもマスクの下で少し笑ってしまったのだ。
本当に不謹慎だ、

反省している。

何かとても滑稽だった。

勿論、煽られている方ではなく、煽っている方が。

しかし一体、どう滑稽で、何がおかしかったのか判然としない。

そのヒントとして、ブーッと鳴らした方のドライバーの心の動きを理解したかった。

そこで、私は気が付くのだ。

私が知りたいのは「私が笑ってしまった理由」だ。他人の心を理解したところで謎は解けない。

あの出来事を目撃して、私が何を感じ、何を思ったのか。とりわけブーっと鳴らしたほうのドライバーの心持ちを、私がどのように受けとめたのか。

カギはそこにある。

そして解明すべきもう一つは、「私、特有の笑いのツボ」だ。私自身、後に、「あれは一般的には笑うような出来事ではなかったはずだ」と知的には理解できているのだから、つまり、「ツボ」とは脊髄反射的に笑ってしまう心の癖だ。

たとえば二人の男性、AさんとBさんが町中で話をしていたとする。そこでAさんが、「あ、Bさん。目ヤニついてますよ(^^)」と親切にも指摘する。と、Bさんは手鏡で確認して、「あ、ほんとだ。教えてくれてありがとうございます」とお礼をする。すかさずそこで、AさんがBさんの後頭部をハリセンでどつく。
あの自動車のあおり運転が、私には上記のような不条理に見えたのだ。
そして私は、こんなAさんとBさんを町中で目撃したら確実に笑ってしまう。「どういうこと?」と困惑しながら絶対に爆笑するはず。そう、これが「私の笑いのツボ」だ。

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AさんとBさんはこの後、お上品なパーティーに出席する予定になっており、身だしなみを整えるよう言い合せていたのかもしれない。にもかかわらずBさんが目ヤニをつけてきたものだから、Aさんから怒りのハリセンが飛んだ…。

しかし事情を知らない者からしたらきわめて不条理、私は大笑いだ。

本筋から外れるが思いついたので、笑いのツボについて、補足したい。
これ、BさんがAさんをどつく、つまり、”親切にしてもらったほうが、親切にしてあげたほうをどつく”だと、少し事情が変わってくる。
「恩を仇で返す方式」であるが、わたし的にはそんなにツボではない。
感謝すべきタイミングでどつく、すなわち、180度、正反対の行動をとることになる。
正反対の行動だと、やや不条理の度合いを欠いてしまう。
この構図、現実世界ではあまり見かけないが、コントを含めフィクションの世界では時折見かける。
正反対、180度。
ある意味で「型にはまっている」。
「180度」もなにかと耳にする角度だ。メジャー。
それよりも、AさんがBさんをどつくほうが、意味不明、わけのわからなさが強まる。
正反対でさえない。角度でいえば、115度くらいだろうか。
115度はあまり見かけない。
このマイナーさに笑ってしまうのだ。

思い出せば確かに、当初、後方車がブーッと鳴らしたのは親切心からの行為であろうと私は捉えた。「信号、青になってますよー(^^)」とむしろ微笑みながら教えてあげたのだという印象がある。にもかかわらず、ぐーんと車のスピードを上げてピタッと前方車のすぐ後ろにつけいやがらせをしたものだから、BさんがAさんをハリセンでどついたような不条理を覚えたのだ。

そして「ブーッ」を、攻撃だった?と認識を変えた。

さらに…、この件を語るうえで、きわめて需要なファクター、それは私が普段、車の運転をしないということ。だから車を運転する人間の気持ちが直感的に理解できなかった。すなわち青信号に気づかないドライバーに対する、後方車のドライバーの感情が。

そうか。以上をもって、あの時、不条理を感じ、私の笑いのツボに突き刺さって、不謹慎にも笑ってしまったわけか。

与太話に終始すると思っていたが、
思いがけなく謎が解けた。

めでたい。

 

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